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できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

題詠100*2021

001:求 「求め方が足りないのよ」と友の言ふ 望みのかなわぬ我を見かねて

002:悲 悲しきは追い出されたる鬼の子が寒夜を外で過ごす節分

003:店 店の前に体温を測る人のゐてピストル型の計器を向ける

004:普通 あなたとは「普通」の定義が違うのに気が付くまでに二年かかつた

005:絵 初めての絵手紙教室パプリカを蔕から先に描きはじめたり

006:宛「宛先に尋ねあたらず」と戻り来ぬ しばらくぶりの友への手紙

007:隔 壁一重隔てるのみの隣より緩きリズムのサックスの音

008:案 提案が受け入れられて開かれしzoom歌会が五回目となる

009:きっかけ きっかけは母の歌集を読みしこと そこより続く短歌との縁

010:回 少しだけ回り道して丘の辺に香る白梅今日もまた見る

011:外 「オーバー」や「外套」はもう死語ならむいつしか耳にしなくなりたり

012:洩 妹も眠れぬ夜をすごすらし ドアの下から光が洩れる

013:匹 小四が小二に詳しく説明す兎を「匹」では数へぬ理由

014:料理 料理本とりだすことの稀になるグーグル先生ばかり頼りて

015:机 机より食卓の方が性に合ふ 手紙書くにもメール打つにも

016:拡 薬瓶のラベルの文字を判読す父の遺品の拡大鏡で

017:ガラス ダンスには向いているとは思へない シンデレラ姫のガラスの靴は

018:区 「その件は差別ではなく区別だ」と言ひ張り何の進展もなし

019:未 未読より既読のスルーが気にかかる君にあてたるライン三行  

020:忙 忙しき子育て時代が華だつた 川土手に見る夕焼けの空

021:国会 いつしかに有効期限切れてをり国会図書館利用者カード

022:族 コロナ禍は過ぎると信じ計画す 一年半後の家族旅行を

023 導 カーナビに導かれつつ到着す 昔の友の暮らすマンション

024:脚 雨晴れて薄く見えだす虹の脚今日一日のフィナーレとして

025:昼 ぼんやりと白く残れる昼の月諦めきれぬ夢のごとしも

026:挙 大挙してキャピタル・ヒルに集まりぬと暴徒と化したトランプ贔屓

027:宜 「特別に便宜を諮る」とささやかれ振り込め詐欺との確信を持つ

028:立 逆上がりも腕立て伏せも出来ぬまま大人になりてしまひたりしよ

029:姓 お互ひにファーストネームで呼び合へり昔の姓しか知らぬ友らと

030:ウイルス ウイルスに翻弄されたる一年に十六歳は無口になりぬ

031:主 連れ合いを〈主人〉といふのはよくないと友が真顔で諭してくれる

032:恒 「太陽が恒星だなんて信じない 東から出て西に沈むよ」

033:多分 多分もうあなたに逢へぬと知りながらぶっきらぼうに別れてきたり

035:替 衛兵の交替式を見守りきバッキンガムの前の広場で

036:裁 亡き祖母の引き出しつきの裁縫箱百年以上を使ひ継がれる

037:送 今は一人しずかに歌ふ 送別会で友と歌ひし「さくらさくら」を

038:反 若き日によくしゃべりたる反動か このごろあまり話したくない

039:憶 追憶の霧の奥よりふと覗く恋人時代の君の笑顔が

040: コミック コミックの吹き出しの中のせりふ文字老眼鏡がなくて読めない

041:斜 攻めたてるごとく斜めに打ち付ける豆ほどもある大きな雹が

042:該「うら若くきれいで尽くしてくれる人」該当者などいない条件

043:慕 あまやかな慕情のままで終りたり十三歳の少女の思ひ

044:平均 平均台の上で開脚倒立しジャンプもこなす 小学二年

045:項 暗黙の了解事項の一つとし体重は少し割り引いて言ふ

046:描 初物の蕪を買ひ来し昼下がり出すあてのなき絵手紙に描く

047:旦 一旦は止みたる雨が降り始む 庭の緑を美しくして

048:出 ドアを開け廊下に出ればそこはもう公共の場所 マスクをかける

049:徒 徒競走はいつもビリだときまつてた 小学校の運動会に

050:技 早起きが私の特技 夜更かしをした翌朝も五時には起きる

051:グリーン オリンピックの開会まであと一か月 グリーン信号出すのは誰か

052:燃 諦めを覚えてよりのわが裡にずしりと重き不燃物質

053:工 工作の宿題なりし竹とんぼ 父がおほかた作りくれたり

054:娘 息子より娘のきびしき目が光る 食事制限守らぬ我に

055:拾 歌の種あれこれ拾ひ海岸の散歩を終へる六月の朝

056:速 鴨を兎を栗鼠を見るたび立ち止まりわれの散歩の時速は二キロ

057:順番 順番を守らず先きに旅立ちぬわれより十歳若き民さん

058:箋 第一稿たつた三日で戻り来ぬ赤き付箋をたくさんつけて

059:復 一曲を反復練習するうちに知らず知らずに暗譜達成

060:六 四国旅行の観光バスでくばられし一六タルトの素朴な甘み

061:いっぱい いつぱいに窓を開きて朝風を迎へ入れたり 父の命日

062:禍 コロナ禍に脚光あびてズーム社の株値がぐんと四割上がる

06 3:正 ひさびさの正座に足を気にしつつ躙り口より茶室に入る

064:笹 新潟に生まれ育ちし歌の友に物産展で笹団子買ふ

065:否 よいところはしっかり褒める練習す 全否定では歌評にならぬ

066:ウルトラ エネルギー補給の達人ウルトラマンを羨みながらサプリを飲みぬ

067:炒 歯ごたへをシャキッと残し火がとおる夫の自慢のモヤシ炒めは

068:去 刻々と過去の時間の嵩が増え未来が萎む ずんずんしぼむ

069:農 手始めに小松菜の種を撒いてみる 一坪ほどの市民農園

070:筋 気をつけていたつもりだがいつよりか行方不明の我の腹筋

071:女 厨房を聖域として護りたり祖母の時代の日本女性は

072:物語 物語と分かりてゐても気がもめる光源氏のマザコンぶりが

073:滞  環七の渋滞はもう想定内「言い訳になんてなりませんわよ」

074:圧 言ひたきをすつきり言ひて悪びれぬ若さに圧倒されて頷く

075:忌 散骨を望みし友の三回忌海に向かひて静かに祈る

076:ごみ箱 ごみ箱を置かなくなりて何年か東京圏の地下鉄の駅

077:上 悪いことをしてはいないが身上書に書く気になれぬことの三つ四つ

078:菓 もう菓子は食べぬと決めて二十年 それでも時につまみ食ひする

079:隠  隠しても隠し切れない哀しみが後ろ姿をしょんぼりさせる

080:尚 否定すれば尚いつそうに言い張りて押し付けてくる君の論理を

081:あさって 「明日にとは約束できぬがあさっては何とかする」と言ひてしまひぬ
082:太  大太鼓の余韻が森を震はせる 明治神宮秋の大祭

083:欧 北欧の空港ロビーの売店にトナカイ肉のスープ缶買ふ

084:顔 マスクしてサングラスかけ顔を隠す コロナ対策の悪人ルック

085:蘇 ベランダに育てし鉢の青紫蘇も枯れて冷たき北風の吹く

086:簿 出席簿で机をパンと叩きたり 「さあ、はじめよう。今日の授業を」

087:苦手 若き日に『高野聖』を読みてよりひね沢庵が苦手になりぬ

088:膚 目に見える膚の衰へより怖し 目には見えない心の弱り

089:粋 純粋な喜びばかりとは言へず中高年の誕生祝ひ

090:稼「共稼ぎ」が死語なりたる令和には「共働き」が普通になりぬ

091:看 引退後の看護師さんを動員しコロナのワクチン接種が進む

092:装 半ばまで雪をかぶりて霜月の富士山はもう冬の装ひ

093:ラベル「よい子」というラベルを貼られ少年の笑顔がどこかぎこちなくなる

094:規 少しずつ規制緩みて戻りだすコロナ以前の街の賑はひ

095:価「無価値こそお前の価値だ」と夫が言ふ 禅問答でもあるまいものを

096:年「年賀状は生存通知」とうそぶて何百枚も父は出しゐき

097:働 「ああ、今日はよく働いた」と独り言ち目をつぶりたり湯舟の中で

098:詫 もう何度聞いただろうか 誠意なき形式だけの「お詫びのことば」

099:昇 ドア越しに産声を聞く瞬間は父母が祖父母に昇格の時

100:嬉 雨の日は気を引き立てて軽やかな嬉遊曲聞くヘッドフォーンで 

                        以上


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